会頭 樫山高士
 会員の皆様にこの拙文が届く頃には第21回参議院選挙も過ぎ国民の審判の示すところは明確になっていることと思います。振り返ってみますと延長された国会も果たして国民の期待に沿った百数十日であったのでしょうか?与野党とも選挙のための党利党略が先行して、本来の二大政党が共に負うべき国益、国民優先のために切磋琢磨がどこで行われたのかを考えてみますと、誠に恥ずかしく、もどかしい思いをしたのは私だけだったでしょうか?
 私は国政から地方まで議員、役人が国民に隠している特権、既得権を明らかにするとともに放棄してこそ、国民への負担増を求めるべきだと確信しております。
 特に議員年金などは「即辞退」が当たりまえではないでしょうか?議員自らがモラルある姿を示せずに市民、国民からの信任を受けることはできません。
 特に前にも寄稿したように日本への評価や存在感の危機に有る今こそ、よくよく未来への責任を皆で考えて行かねばと思うのですが。
世界遺産「百塔の街」タリン

 さて本題に戻りましょう。
 この五月に友好都市の調印を終えたバルト三国のもっともロシアに近い国、エストニア共和国のSAKU市を三浦市長始め市民26名で訪問する機会をいただきました。
 エストニアは長い歴史と独特の文化を持つ国のようですが、わずか16年前まではロシアの支配下にあり、「自由」とはほど遠い国情でした。ある意味ではわずか140万人の地方にあって自分の言葉も話せず、長い歴史の流れの中でドイツやデンマークに支配されていた艱難辛苦の時代を経て、1989年2月24日に民族共通の悲願であった公式な独立を勝ち取ったとのことです。
 首都のタリンは「百塔の街」として世界遺産に指定された美しい城塞都市で、街並みを歩くと厳しい自然環境の中で異民族からの侵入を防ぐために、高くて厚い石作りの城壁にすぐにぶつかります。
 この国の美しさを語るのは他の参加者にお願いして、私としてはたまたま弊社の取引先の若き社長の言葉と経営手法から、さらにはタリン商工会議所を訪問して得た資料のなかから一部を紹介させていただきます。
 生まれたばかりの小さい国がやっとEU<ヨーロッパ連合>に加盟を許され、その支援を受けながらもっとも効率的で低コストの国づくりに、IT情報技術を全ての分野において活用することを戦略的に決めたようです。まず「E-ガバメント」により小さく効率的な政府による国政運営を目指しており、基本的に議員はボランテイア的で本業を持ち、歳費は交通費ぐらいです。議会は週末や夜間に開かれ、議長が地方の市長を推薦し、任命された行政のプロとして実務の責任者として市政の執行者となるようです。
 「E−教育」が進んでいて、子供達の学校におけるその日の授業内容や、教師と子供との会話、試験結果等が自宅にいてリアルタイムで把握できるとのことです。また「E-ビジネス」では、タリン商工会議所によると、銀行取引の90%はすでにネット処理されており、また弊社の取引先企業によると受注管理も電話やファックスは効率が悪いので、各受注先はコード番号によるネット処理が原則だそうです。
 国民一人一人はパスポート、運転免許、年金、税金、銀行取引にも共通のIC(知的)カードを持っていますが、我が国ではプライバシー優先との建前で実現していません。日本もエストニアと同様にいずれ「必然」となるものと私は思います。
 また民間活力を最大化するために、企業が上げた収益は、自社への再投資またはエストニア国内への投資であれば非課税とのことで、政府は限りなく小さく民間の経営者の活力にエストニア経済の発展を託すとのことでしたが、結果的にはEU各国の中でも高い成長を達成できているようです。ここも日本の古い?お上意識とはだいぶ違いますね。
2万5千人が舞台にあがった「歌の祭典

 一方、幸運にも私どもの訪問時に、エストニアの不幸な時代に民族の誇りと伝統を受け継いだ「歌の祭典」「民族舞踊の祭典」に巡り会うことができました。
 この五月に天皇、皇后両陛下がご訪問の折りにも特別に3千人の若者が集まり、両陛下のために民族の歌と舞踊が披露されて、大変お喜びになられたと駐エストニア臨時大使が話してくれました。私どもにとっても、舞台が2万5千人以上が一時に登れて、客席は10万人が集える巨大な会場での「歌の祭典」は、地方毎に違い各家代々伝わる彩り様々な民族衣装を身に纏いながら、老若男女が歌い、そして応援している姿には感動をしました。
各家代々伝わる彩り様々な民族衣装による
民族舞踊

 また3千人以上が大きなグラウンドで2時間半以上繰り広げられるフォークダンスの連続は、この歌と踊り以外には民族の言葉と自己表現をすることができなかった時代の熱気を想像するとき、涙がにじむ想いでした。
 私ども日本、日本人が如何に幸せな時代を謳歌できてきたことを改めて感謝するとともに、目の前に来る「日本、冬の時代」に備えを急がねばならないというのに、日本を覆う「無責任の連鎖」はどんな結果をまたそのつけを払うのは一体誰であるべきなのでしょうか。

 
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