会頭 樫山高士

今年は国内、海外を問わず出張の多い年です。世代交代、時代対応とグローバルな変化に対応するのに 忙しい一年で終わりそうです。

今回は長年の友人であり客先でもあるエムケーカシヤマ(株)のイギリス代理店である会長から、創業20 周年と彼の長男の結婚を記念して、またEUヨーロッパ共同体営業基盤強化に向けポルトガルに設立した 支店を案内したいとメールが夏の初めに届きました。

そしてその記念の会を、ゴルフを楽しんでいる人なら一度はプレイしてみたいと思うセントアンドリュ ース(スコットランドの外れの海に面した世界最古の公式戦である全英オープン開催地)の併設ホテル で行うので是非とも来てほしいとのことで、家族ぐるみのつきあいなので夫婦で行くことになりました 。

聞くとメインコースである「オールドコース」のプレイはハンデイ制限があり、男性は24まで女性は36 までとなっていて、確認できる証明書を持参するようにとの指示でした。

ところが出発予定の9月3日が近づいた頃に、イギリスでは無差別テロを共謀していたテロ集団が逮捕さ れ、さらに1,000名規模の不審者の捜査を継続しているとのことで、イギリス、アメリカへの出発、到 着便には厳しい安全検査が行われ、機内持ち込みもかつてない規制が発表されていました。

日本で想像しているよりも「いま足下にある危機」感が非常に強く、ペットボトル、ほ乳瓶、化粧品と いった小さなものまでが規制対象となり、出入りはパスポートの確認は当然で、指紋やゲートでの写真 撮影、さらには靴、ベルトを取ってのX線検査。 そして長蛇の列に並ぶという難行を経て、やっと飛 行機に搭乗という厄介なものでした。

それでも世界一有名なコースでプレイできるのだからと同行者20名は、ロンドンからスコットランドの 首都エジンバラに到着、疲れていてもさらにバスで90分、夕暮れ迫るといっても場所がら夜9時くらい までは暗くならないのですが、荒れた感じのする農地の続く平野を走り、意外に小さな町セントアンド リュースのホテルに到着して「ああはるか遠くへ来たものだ」の感慨はあるものの、遠足前の子供のよ うに皆さん興奮気味でした。

コース併設のホテル「オールドコースホテル」宿泊がプレイの前提条件ですが、五つ星ホテルで内容は 充実していました。日本では中秋の名月を、現地ではハーベストムーン「刈り入れの時」というそうで すが、さい先良さそうな満月がうねり、波打つコースを陰影濃く目の前に広がっています。

私どもは三泊して二日間の2ラウンドのコンペになっていたわけですが、私は自重して?初日は「スコ ットランド名産。シングルモルトのみ放題。」コースを 地酒の町でもある佐久を想い選んだのでした 。 皆さんの力の入った練習とスタートを見送り、昼食後はコースの17番を見下ろすバーラウンジで現地ス タッフと共に、あまりに種類が多くてとても全部は飲めませんので、有名なバーテンダーの推薦する順 に飲んでみましたが飲み口、スモークの具合、水の違い、ピートの違い、樽の違いで千変万化の味の饗 宴でした。

朝から霧がまいて心配していましたが途中からは雨になり、遠くの海は波立ち、風が荒れ、塩辛い雨が 横殴りに降るという誠にリンクスらしい天気です。 イギリス人チームは途中でやめて来ましたが、日本人チームは待てども帰らず、特攻精神で18ホールを ずぶぬれ、体の芯まで冷えて、折角のスコアカードも紙くずのようになってやっと生還してきました。 というわけで、その夜は「何故日本人はこんな天気でもゴルフをやめないのか」が酒のつまみになりま した。


さて翌日はいよいよ参戦です。スタート前に会長から「自分は過去60回を超える日本への旅でゴルフに 参加して思っていたことだが、日本人はゴルフを知らないのではないか」との始まりで「よって本日は ゴルフ発祥の地では地元のルールに従い当然ノータッチ、グリーン上OKは無し」と、ある意味当然のこ とでスタートに向かいました。

私はゴルフは下手ですし、そんなに熱意もないので現地貸しクラブでプレイしました。全英オープンを 回ったこともあるという体格の良いキャデイが一人ずつ付き、私はコンペ主催者の会長とティグラウン ドに立ちました。

1番はテレビで見るクラブハウス前からで大勢の観光客が心配そうに見ています。 ここはすぐ隣が18番 の最終グリーンで常に見所です。

220ヤード以上超えないとクリークが横切っていてさらにグリーン前にもクリークがあり、正確なショ ットを待っています。

私のセントアンドリュースの最初のドライバーは230ヤード位飛び、2打目もキャデイの指示に従い大き めに打ったところ、運良くグリーンの奥、ピンから6メートルに乗り下りのアンジュレーションの強い フックラインが残りました。

初めての貸しクラブのパターは練習もしてないので何もわかりませんが、キャデイの指示に従い「頼む ぜ」といって打ったらゆっくり、早く複雑なラインを超え、ホール前60センチ位からのフックラインに 乗ってなんとカップ右端からたれ込み、初ホールがバーデイということになったのでした。めでたし、 めでたし。

その後はいたる所でコースの厳しさを体験し、日本のコースは箱庭みたいなものだと思わされました。 北の海沿いに広がるリンクスは常に風が舞い、ラフは強く深く、名物ブッシュは小さなトゲの固まりみ たいで、手を入れれば血まみれになりそう。18ホールに127個あるというバンカーはそれぞれの名前が 付いていて、全てグリーンに向かっては高い壁のようになっており、捕まったらどう打ってもクラブが 壁にあたるような小さく深いポットバンカーや、地獄と名前のついた大きく、広く深いものまでがやた らプレッシャーになるのでした。

昨年の全英オープンをここで闘ったタイガーウッズもドライバーの使用を最小限にとどめ、バンカーを 避けるショットを重ねて、一億円を超える賞金と名誉を勝ち取ったわけですが、その同じコースを回っ ているのでキャデイに確認すると、「あんた達のコースはアマチュア用であり、チャンピオンティーは 後ろを見ろ、景色と難易度が桁違いなんだ」と自慢げに言うのでした。

それでもこの日は日本では打ったことのないようなショットが続き、風が変わり、グリーンがどこか分 からない中、素直にキャデイの指示に従い、欲なく写真を撮りながら回って9番にまできました。ここ はサービスミドルとかで289ヤード、パー4です。 なんと風のフォローにも助けられたとはいえワンオンし、イーグルはならないものの、この日二つ目の バーデイを取れたのは夢のようでした。

みんなの冷やかしの声を背中に後半に向かいましたが、16番に罠がありグリーン前のバンカーにつかま り過去最悪の15も打ってしまい、良い気分を現実に引き戻されたのでした。

もう二度と来ることは無いでしょうが、今日は天候も穏やかで会話を楽しみながら、18番のこのコース の象徴でもある石橋を超えて、最終グリーンに向かう時の感慨は深く、ダブルボギーのパットを終わっ て主催者のクリス・ジェフリー会長とも同行のキャデイとも御礼のハグ(軽く抱きしめる親愛の印)を してゴルフの聖地、世界のゴルファーの憧れの地セントアンドリュース、オールドコースを後にしたの でした。
ご注意: スコアはプライバシーですので悪しからず。


その夜 創立20周年行事も和やかに終わり、他の客とは別行動で翌朝早く、会長の案内でポルトガルの リスボンに向かいました。コストの低いここからスペインを狙うのだとの経営方針を聞き、多くのこと を教わった日本とポルトガルとの歴史に思いを馳せ、ドイツのフランクフルトへの途中、パリで何年も 修復中でみられなかったオランジェリー美術館で、モネの睡蓮の大作に再会しました。 フランクフルトは、世界最大の自動車部品関係の展示会の開催地であり、展示会では過去最高の4,500 社を超える出展を世界から迎えて開会しており、様々な人に会い情報交換をし、大きな刺激を受けて15 日に長い旅を終えて日本に戻りました。


 
コラムINDEXにもどる