会頭 樫山高士

この5月の連休明けに、私は取引先の訪問と併せ原油価格の高騰が続いていることもあって、自分の目で見たいと思いクウェートとアラブ首長国連邦の国ドバイを訪ねて来ました。
長いこと1バレル6ドルくらいだった原油価格は、昨年以来10倍の60ドルを超え、さらに上昇して過去にない70ドルから下がらない高止まりの情勢にあります。この原因は中国の輸入の拡大、世界の異常気象による低温化また高温化のための需要増、投機資金の拡大の受け皿、世界の資源確保競争の結果と様々に言われております。

信州佐久は、みどり濃く鮮やかなそして水豊かで千曲が流れ、みなさんの自宅の庭の隅にもこの時季小さな山野草が可憐な花を咲かせていると思いますが、この四季折々美しい里とは違い、この地域は空から見ると見渡す限り土色で、限りなく乾いた景色と一年を通して雨が降ることは稀で、夏の気温は50度を超え湿度も90%を超すこともあると言われています。風が吹けば砂塵が舞い、砂嵐になれば何時間か何日かとにかく過ぎて行くのを待つばかり。
それに戒律の厳しいイスラムの国で男女同じ席につくことはなく、それぞれの部屋で会議も食事も取るとのこと。

クウェートでは代理店のオーナーに招かれて自宅に案内されました。自宅といってもお城のような大きさですが、なにしろ定期的にお茶を飲んで雑談や相談をする部屋が大小あり、私どもが通された部屋は80人が一度に集まれる大きさで、床には中国製と思われる段通が敷き詰められ、また天井にはイタリア製シャンデリアが何基も輝いていました。
そこでの昼食も豪華なもので、全て戒律に従い調理された料理は10種類以上大きな皿に山となり、誰が食べるのだろうと疑うほどの量でした。
メイドでも来て皿に取り分けてもらえるのかなと待っていると、客人を迎えた時には家族の目下のものが順番にサービスをするとのことで、オーナーの3男から最後にはクウェートでは長老で王室の相談役という立場の会長が、私どもに料理を勧め取り分けてくれたのでした。全体の4分の1位の料理が片づいたかなと思っていたら、次は別のテーブルに案内されて、これまた果物、チョコレート、ケーキそしてアイスクリームといったデザートに、私どもはもう見るだけで胸焼けが起きそうでした。

このオーナーはクウェートでは伝説的な人で、イラクのクウェート侵攻の際に社員や幹部は隣国のドバイに出国させ、自らは自動車部品販売業が本業ですのでその事務所、倉庫に陣取り、侵入してきたイラク軍の高官と金で話をつけ、自分の会社の護衛をイラク軍に行わせ、解放後は巨利を得たとのことでした。
私たちの訪問の時は政権が変わり、新しいキングと旧体制の権力の安定にむけ頻繁に携帯が鳴っていました。

私はクウェートの油田を見たいと言ったのですが、警戒が厳しくカメラは無理とのことでとりやめましたが、原油高騰による多額の収入で、従来からの国民の医療費や教育費等が無料なことはもちろんのこと、税金もありません。

一方では客先の目線は大金持ちに向かっての投資が盛んに行われており、医療費無料の国に、入院1日5,000ドル(日本円で60万円)位の5つ星ホテルのサービスをする病院を建設中で、しかもこれはお産だけを専門にするとのこと。ショッピングモールも同じコンセプトで車は3,000万円以上もするアストンマーチン、ブランドはベルサーチはじめ有名ブランドのてんこ盛り。それが顧客は主に20歳前後の女性で親が金持ちという背景のようで、一人客単価は25万円くらいとのことでした。
つまり我々が高いガソリンに文句言っている金が、巡りまわって産油国の王室はじめ一部の国民の高額消費を支えていて、けっして石油生産のための再投資にばかり向かっているわけではないようでした。

さらに蜃気楼の様な国がドバイです。今は世界中から注目されホットな観光地に変身中です。
不思議なことに、このドバイは産油国ではないのですが経済発展はアラブ首長国連邦で一番とのこと。
昔の面影は無く世界初という7つ星で一泊20万円以上もするというホテルが今のところ2つある国で、ホテルに入るのに宿泊客以外は入場料を払わなければならないのです。
ドバイは黒い噂も多く、例えばアメリカにもいい顔をしながら、一方ではテロ集団にも巨額の資金を提供しているとか。
世界のマフィアとの平和協定を結ばせドバイでは犯罪を起こさない替わりに、マネーロンダリング(資金洗浄)を許可しており、その手法は政府主導の高インフレであり、土地がつまりは砂漠が次々と国民に無料で支給されるという住宅街に変わり、住居がいらない遊牧民はその家を外国人に貸して収入を得るとのことで「本当かよ、まじ!?」というような話ばかりです。海岸沿いの道も高層ビルの建築ラッシュ、中には世界一を目指すため高さを公表しないで建設しているビルもありました。
ドバイは戒律もどんどん緩めており、酒も飲み放題、もうすぐカジノが許可されるに違いないとのことでした。

この油田のない産油国の後をその他の首長国連邦が追っており、砂漠から都市への変化を遂げようとしているようにも見えるわけで、これは「油田の上の蜃気楼」に違いないと思いつつ、帰国後は美しい木々の緑にまたさわやかな風に触れながら、佐久の住人で良かったと改めて感謝した次第でした。


 
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