神社や仏閣に奉納された絵馬の中に「算額」と呼ばれているものがあります。算、すなわち数学の問題とその答などを描いたものです。江戸時代に我が国の数学、いわゆる和算が発達し、その内容もある分野では西洋の数学に匹敵するほどだったと言われています。これを担ったのは市井の人達でした。
今日のように研究成果を発表する媒体がなく、木製の扁額に問題とその答を書いて人が大勢集まるお宮やお寺に奉納したのが算額です。
全国には沢山残っています。佐久にも小諸の八幡神社、軽井沢の峠の熊野神社に2面、そして佐久市では浅科の八幡神社、香坂の明泉寺千手観音堂(現在は寺内に保管)、臼田の広川原の禅昌寺(未見)の3面が知られています。探せばまだあるかも知れません。
ここでは浅科の八幡神社のもの〔安永9(1780)年、石家保?納〕を紹介しましょう。
これは県下に現存する算額としては最古のものですが、保存状態がよく230年近くたっても図や字がはっきり読みとれます。
内容は写真(右)のように、円の中に中心を共有する正方形があり、この正方形の各辺の中点から円周に垂線が引かれています。これを矢と言うようです。条件は次の二つです。
(1)矢の二乗と円の面積から正方形の面積を減じた差との和が9寸8分。
(2)円の直径の平方根と円周の和が14寸8分。
これから矢の長さを求めよという問題で、その答が1寸だというのです。
面積の和が長さであったり、直径の平方根と円周の和も長さになるなど、次元の違うものの和といった矛盾がありますが、単位のない単なる数遊びと考えればよいと思います。2次方程式を解くだけですので中学生なら解ける内容で、算額の問題としてはごく初歩的なものです。試してみて下さい。
数学嫌いな人でも、これなら楽しみながら解けると思います。算額は単なる絵馬に過ぎませんが、立派な文化財です。大事に保存して多くの人に見てもらいたいものです。数学が苦手の人もこれを見ると数学好きになると思います。お守りでも作ったらどうでしょう。

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