地元の人たちが八幡さまとよぶ平賀神社(佐久市平賀保育園の近く)の境内に、高さ4m近い大きな石碑がある。高松回翁藤原明言歌塚で、碑面に平仮名293字の回文が刻まれている。万延元(1860)年この地方の門人が建てたもの。明言は享和2(1802)年いまの千曲市に生れ、回文を得意とし、佐久地方にも多くの弟子をもっていた。
回文は上(左)から読んでも下(右)から呼んでも同じになるもので、小学1 年生でも即座に「こねこ」「みなみ」「トマト」などが口に出る。今も昔も回文は言葉遊びとして親しまれている。
現在使われている仮名文字は「を」を「お」とみなし、濁音、半濁音も入れると70。3 音節回文は頭に「ん」が来るもの。「あああ」のように3 文字連なるものを除くと、意味のあるものないもの合わせて4700
余りになる。新しく3音節回文を創作するのはむずかしいが「ラマラ」「サルサ」のような片仮名語が次々登場するので楽しみも残されている。4 音節回文は偶数のため3
音節よりもやや少ない。
私は「きつつき」くらいしか頭に浮かばない。5 音節は奇数、計算上では33万8 千弱。高知県の農協に「とさのさと」という商標がある。土佐の里であろう。佐久なら「さくのくさ」長野県なら「ダムはムダ」。「まさこさま」は真中の「こ」を「お」とか「え」にした応用が可能。昔からある「たけやがやけた」は7字、これだと2365万余りと一挙に多くなる。江戸時代に出た回文俳句の手引書には中なか七しちの回文詞の例として「草花ハサク」がある。サクは「咲く」だろうが「佐久」でも面白い。近ごろ何かでみたのが「のものものはのものもの」、11
文字である。勿論野茂投手のこと。野茂は珍姓の部類に入る。この不世出の投手がいなかったらこの回文は意味をなさない。因みに11音節だと1158 億種類もある。
新しい佐久市が誕生して1年、「さく」あるいは佐久の地名などを入れた回文を全国から募集したらどうか。折角ある回文碑を町起こしに使わない手はない。例えば「さくのののくさ」(佐久の野の草)、「さくらいにいらくさ」(桜井に蕁いら麻くさ)。蕁いら麻くさは刺とげのある多年草。茎の皮が繊維となる。この繊維で布を織る話がアンデルセンの「白鳥にかえられた王子たち」に出てくる。でも嫌われものの雑草である。
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